
IR(統合型リゾート)の開業が決まる中、海外サイト上のオンラインカジノでの賭博の摘発者が増加している。お笑い芸人、プロ野球選手、アナウンサー等、著名人の摘発も相次いでいる。その中、一部芸能事務所等において所属芸能人らに対してオンラインカジノでの賭博経験の有無を聴取したこと等が報道されている。
このような聴取が行われたのは、所属芸能人らがオンラインカジノで賭博をしていたとの報道が出たことを受けてのことである可能性もあるが、こういった一斉聴取(調査)の結果如何によっては、適切に対応することが容易ではないこともありうる。
そこで、以下では、事業者が、従業員に対してオンラインカジノにおける賭博経験を一斉調査することの問題点を検討する。
1 従業員がオンラインカジノ賭博で摘発された場合における当該従業員の処遇
まず、従業員がオンラインカジノ賭博で摘発された場合におけるその従業員の処遇については、弊事務所トピック「ギャンブルにはまる従業員の処遇(IR開業を控えて)https://chishin-law.jp/blog/%e3%82%ae%e3%83%a3%e3%83%b3%e3%83%96%e3%83%ab%e3%81%ab%e3%81%af%e3%81%be%e3%82%8b%e5%be%93%e6%a5%ad%e5%93%a1%e3%81%ae%e5%87%a6%e9%81%87%ef%bc%88%ef%bd%89%ef%bd%92%e9%96%8b%e6%a5%ad%e3%82%92%e6%8e%a7/」を参照されたい。
上記記事のうちオンラインカジノ賭博に関係する部分を要約すると、従業員が単純賭博罪や常習賭博罪で摘発された場合は、その従業員に対して懲戒解雇や諭旨解雇をすることまでは困難であるものの、これらより軽い懲戒処分や普通解雇は可能であろうということになる。
2 従業員に対するオンラインカジノ賭博の調査方法
まず、従業員に対してオンラインカジノ賭博の有無を調査する方法について考えてみたい。
聴取やアンケートが考えられるが、これらの方法は、聴取の方法やアンケートの内容が強圧的であるとか過度にプライバシーを侵害する等の問題がない限り、適法である。
スマートフォンやパソコン等の端末についても、それが事業者が貸与したものであれば、その端末を提出させて調査することは特に問題はない。
では、従業員から私用のスマートフォン等の端末を提出させて調査することはどうか。従業員の同意があれば許されようが、従業員の同意がない場合がないのに、私用の端末を調査することはプライバシーの侵害であり、許されないと思われる。
3 オンラインカジノ賭博の判明後の対応
(1)一斉調査によることなくオンラインカジノ賭博が判明した場合
まず、一斉調査によることなく従業員がオンラインカジノで賭博していたことが判明した場合は、どのように対応すべきであろうか。
オンラインカジノ賭博が判明したきっかけが捜査機関による摘発の場合は、上記1のとおり、懲戒解雇ないし諭旨解雇より軽い懲戒処分や普通解雇をすることは可能であろう。
オンラインカジノ賭博が判明したきっかけが捜査機関による摘発ではなかった場合(同僚からの申告の場合等)でも、同様の処分が可能であるものと思われる。この点についても、詳しくは、弊事務所トピック「ギャンブルにはまる従業員の処遇(IR開業を控えて)
(2)一斉調査でオンラインカジノ賭博を認めた場合
では、事業者が従業員に対してオンラインカジノ賭博の一斉調査を行った結果、一部従業員がオンラインカジノ賭博経験を認めた場合、その従業員に対してどのような対応を採るべきであろうか。
第一の選択肢としては、上記(1)と同様に、懲戒解雇ないし諭旨解雇より軽い懲戒処分や普通解雇とすることが考えられる。しかし、自主的にオンラインカジノでの賭博を認めたにもかかわらず、捜査機関による摘発や同僚からの申告等と同様の処分をするのは、若干公平に反する。また、そもそも、普通解雇され、あるいは重い懲戒処分を受けることがわかっているにもかかわらず、自主的にオンラインカジノでの賭博を認めることを従業員に期待することは困難であり、一斉調査の実効性にも疑念も生じかねない。
やはり、一斉調査に対してオンラインカジノ賭博経験を認めた従業員に対しては、上記(1)よりも軽い処分とすべきであろう。役職者については、降格もありうるが、その他の従業員については、出勤停止程度が妥当ではないだろうか。もっとも、賭けた額や頻度、期間によっては、普通解雇せざるを得ない場合もありうるため、実際に処分内容を検討するに当たっては、弁護士に相談することをお勧めする,
なお、一斉調査の結果、一部従業員がオンライン賭博を行っていることを知ったとしても、事業者は、捜査機関に対して通報する義務を負っている訳ではないため、そのことが一斉調査の障害になることはない。もっとも、他の従業員が調査結果を知って、オンライン賭博を自主申告した従業員を刑事告発することは、公益通報者保護法の適用対象となる公益通報に該当するため、注意を要する。
(3)一斉調査でオンラインカジノ賭博を認めた従業員が摘発された場合
次に、事業者が従業員に対してオンラインカジノ賭博の一斉調査に対して賭博経験を認めた従業員に懲戒処分をした後、その従業員がオンラインカジノ賭博で摘発された場合、事業者は重ねて懲戒処分や普通解雇はできるだろうか。
結論的には、この従業員に対してはオンラインカジノ賭博について一度懲戒処分を行っている以上、重ねて懲戒処分を行うことは許されない(二重処罰の禁止)。また、厳密にいえば懲戒処分には当たらないものの、既に懲戒処分が行われている以上、普通解雇をすることも困難と思われる。
ただし、摘発の対象となったオンラインカジノ賭博が、一斉調査後も継続して行われていた賭博に関するものであった場合や、一斉調査に対して申告したオンラインカジノでの賭博よりも多頻度が、多額あるいは長期間であった場合は、程度によるが、改めて懲戒処分や普通解雇をすることも可能であろうし、情状が悪い場合は懲戒解雇や諭旨解雇も選択肢となり得るが、その処分の是非や程度の判断は、困難を伴うため、弁護士へのご相談は必須である。
(4)一斉調査で否定した従業員についてオンラインカジノ賭博が判明した場合
オンラインカジノ賭博に関する従業員の一斉調査においてオンラインカジノでの賭博を認めなかった従業員が、後にオンラインカジノ賭博を行っていたことが判明した場合はどう対応すべきか。
まず、捜査機関によって摘発された場合、上記(1)と同様に、懲戒解雇ないし諭旨解雇より軽い懲戒処分や普通解雇をすることは、問題がないものと思われる。また、一斉調査において虚偽の申告をしていることを考慮すると、賭博の頻度や額が多いあるいは期間が長い等の事情によっては、懲戒解雇や諭旨解雇もあり得ないことはないと思われるが、実際にこれらの処分をするに当たっては、やはり弁護士へのご相談は必須である。
また、捜査機関による摘発以外の事由(同僚からの申告等)でオンラインカジノ賭博が判明した場合、上記(1)と同様、懲戒解雇ないし諭旨解雇より軽い懲戒処分や普通解雇をすることは、問題がないものと思われる。また、捜査機関によって摘発こそされていないものの、一斉調査において虚偽の申告をしていることを考慮すると、賭博の頻度や額が多く、かつ期間が長い場合は、それより重い処分もあり得ないことはないと思われる。もっとも、懲戒解雇や諭旨解雇のハードルは相当高いため、やはり、その処分に当たっては、弁護士へのご相談をお勧めする。
3 社内調査の是非
最後に、以上の検討を踏まえ、従業員に対してオンラインカジノ賭博について一斉調査を行うことの是非を検討したい。
もちろん、報道された事例のように、組織内でオンラインカジノ賭博を行っていた者の存在が判明した場合に、一斉調査を行うべきことはいうまでもない(捜査機関も、その組織内の他の者もオンラインカジノでの賭博を行っていることを疑い、摘発に努める可能性が高く、一斉調査を行わなければ、レピュテーションリスクが懸念される。)。
しかし、こういった従業員がオンラインカジノ賭博をしているということを窺わせる事情もないのに、一斉調査を行う必要はあるだろうか。上記2のとおり、特に、一斉調査でオンラインカジノ賭博を認めた従業員に対して懲戒処分をした後にその従業員が摘発された場合、原則的に重ねて懲戒処分等をすることができない等、一斉調査には難点もある。
オンラインカジノ賭博に手を染める従業員を一掃することを目標とされる経営者の方は別として、結果によっては対応に苦慮することとなりかねない従業員への一斉調査は、あまりメリットがないと思われる。
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