1 改正についての動き
  2018年3月から法制審議会民法・不動産登記法部会において、所有者不明土地問題の対策を主眼として、相続登記の義務化が検討され、2020年中を目途に、近く中間試案がパブリックコメントに付されるという状況にある。
  それに先立って、相続登記の義務化について一定の考察をしてみたい。
2 考察
⑴ 登記義務規定の実効性について
従前の取り扱いとしては、不動産登記に関しては、表示登記を除く権利登記については、私的自治の原則のもとに、登記義務は存在しないが、相続登記については、相続登記申請の放置を原因とした所有者不明土地の発生を防止することを主眼として登記の義務化を進めるとのことである。そして、同義務に反した場合は過料の制裁が予定されている。
相続登記が義務化された場合の運用については未知数であるが、既に商業登記では、登記義務が規定され、登記懈怠の場合には一定の過料(会社法976条1項1号等、非訟事件手続法91条)が課されることになっている。このような商業登記において登記義務とされているのは法人に関しては商業登記を信用して取引をする際の取引の安全が私的自治よりも優先するという判断に基づくものであった。
では、先行して登記義務が規定されている商業登記における運用実態や現実での登記申請の履行実態はどうなっているであろうか。
あくまで何らかの統計を取るなどのものではなく、当職の私的雑感としては、実際は、上場企業等のコンプライアンスが重視される法人であれば、登記懈怠を避けるべくモチベーションが保たれるが、中小企業のように登記義務懈怠が何らかのペナルティーに直結しない限りは、過料の制裁があったとしてもさほど登記義務を期限内に履行させる手段として機能していないように見受けられる。
その理由としては、一般的な登記期限(登記原因から2週間以内)までに登記を行わなかったとしても即座に過料が課されるわけではなく、より長期に亘って放置しなければ過料の制裁は課されないという運用がなされており、明確な基準に基づく運用がなされておらず、当事者としては過料を警戒して登記義務を履行しなければならないというモチベーションが十分に与えられていないことにあると考えられる。なお、過料の制裁が課される場合の実務感覚としては、半年以上の懈怠であれば過料がなされる可能性が高まるという程度のものである(但し、公開の裁判がなされることなく、非公開の中で決定で課されており、明確な基準はないため「感覚」という表現にとどまざるを得ない現状がある。)。
そうすると、実際に登記義務を規定し、登記懈怠の場合の過料の制裁を置いて長年運用されてきている商業登記の実績に鑑みても、さほど過料制度では登記手続きが進むとは考えにくいと言わざるを得ないだろう。
もっとも、このような商業登記の実績を生み出した理由としては、上述のとおり過料の制裁規定が、非訟事件手続きということで、一般には公開されない中で、何らかの見えない基準で作出された登記懈怠のみに過料を課してしまっているという状況に原因があると考えらえる。
それゆえ、仮に、相続登記の義務を過料をもって強制させようとするならば、同じく非訟事件手続きの中であったとしても、法律において定められた期限内に登記義務を履行しなければ、現実に過料を課すという運用がなされなければ、その実効性を担保することは困難であると予測される。

相続登記の義務化についての考察②に続く

 

                             以上