1 はじめに
2025(令和7)年11月、大阪市は国家戦略特区法に基づく特区民泊の新規申請受付を2026(令和8)年5月29日をもって停止することとし、以降は認可済みの施設は引き続き営業可能だが、新規追加は認められないとの政策変更を実施する。その他にも大阪府内の多くの市町村が同様の対応をすることとなっている。
特区民泊は、増加するインバウンド需要に対応するための受け皿として宿泊施設の代替として促進がされ、旅館業法に基づく許可を受けずとも一部ではオンラインによる届出だけで開始ができるという点で、多数の利用がされてきた。そして、特に大阪では関西国際空港を起点とした近畿圏へのインバウンド客の宿泊の受け皿として多くの事業者(法人だけでなく、個人も多分に含まれていると考えられる。)が民泊事業に算入してきたという経緯がある。
しかしながら、民泊事業においては近隣住民とのトラブル等も増加し、かつ、民泊事業のための不動産(主にマンション)の買い占め等による不動産価格の高騰等も相まって昨今では批判の的とされてきた。
そのような批判の機運の増加等に加え、民泊事業の一定の役割も終えたともいえることから大阪における上記のような政策方針転換に舵が切られたと考えられる。
もっとも、民泊事業者は既に取得した不動産を今後も民泊施設として利用するのか、それとも他の用途に使用するのか、売却等の処分をするのかという選択を迫られることになる。
そこで、本稿ではこのような選択に直面する民泊事業者が知っておくべき諸問題について検討していくこととしたい。
2 既に民泊認可を受けている事業者の検討すべき選択肢について
⑴ 上記で述べたとおり2026年5月29日までは特区民泊の新規追加は認められるのであり、それまでに既に民泊認可を得た事業者の場合の選択肢は次のとおりである。①民泊事業を継続する、②民泊事業から撤退する、③旅館業法の許可を得る等の宿泊事業へ転換するということになる。以下では、それぞれの場合に留意すべき事項を述べるものとする。
⑵ ①民泊事業を継続する場合
特区民泊による新規受付が停止されたとしても、既に認可を受けている特区民泊での営業が禁止されるものではないため、民泊事業を継続することも可能である。しかしながら、この場合でも特区民泊に基づき認められた民泊事業を将来的にいつまで認められるかどうかという点は未知数であるともいえる。そもそも特区民泊は国家戦略特別区域法第13条に基づき認められているものであるが、同法は国際経済環境の変化等に柔軟に対応するために規制改革その他の施策を総合的かつ集中的に推進するための特例を認めるものであり、ある種の特例を一定の条件の元に試験的に実施することを認めるというものである。 もちろん既に営業認可を受けている以上、一定の営業権として保障がされることになるが、このように元々試験的な実施という制度であることから、将来的に全面廃止、一部規制ということも十分にあり得る事業であるということを認識して事業計画等を立てておくことが求められる。また、昨年から続く中国の訪日客減少等の外部的要因による需要の減少ということにもインバウンド客をターゲットにする以上はやむを得ないものである。
他方で、大阪を含む近畿圏においては大阪・関西万博は既に終了しているが、今後、IR事業の展開というさらなるインバウンド客を誘引するような将来展望が存在することから、それまで現在の民泊事業を維持して耐え続けるということも経営判断としてはあり得るところである。
⑶ ②民泊事業から撤退する場合
上記のような民泊事業の将来の不確実性から民泊事業からの撤退を検討する事業者も少なからず存在することが考えられるが、その場合は以下のような選択肢における留意点を認識すべきである。
ア 旅館業法による許可を得るという選択
民泊事業ではなく、正式に旅館業法に基づく許可を得て正式な旅館業を行うということが考えられる。もっとも、旅館業法に基づく許可には多くの厳しい要件(客室数、客室床面積の制限、消防法等の各法律、保健所が定める衛星・構造設備基準の充足等)が存在する。ところが、特区民泊を行っている事業者の多くは通常の分譲マンションの一室のみを保有しているというような状況であり、旅館業法に基づく許可を得るということが可能な事業者は、非常に限られているといえる。そのため、旅館業法に基づく許可を得るという選択肢の現実味は低いといえる。
イ 不動産を賃貸業に利用するという選択
上記のように旅館業法による許可は現実味が無く、他方、通常の分譲マンションの一室であり、かつ、比較的立地条件も良い物件も数多くあると考えられる。そうすると、そのような居室の場合、通常どおり第三者に賃貸をして、賃料を得るという不動産賃貸業に供するという方法が考えられる。
このような不動産賃貸業においては、民泊のような数泊程度の利用をするというものではなく、民法及び借地借家法上の賃貸借契約の規制を受けるということを十分に留意しなければならない。契約形式としても、通常賃貸借契約、定期借家契約、一時使用賃貸借、事業用定期借家契約等の契約形式は多岐にわたるものである。そして、それぞれに一長一短と契約によっては厳格な契約要式が求められるものも存在する。
何よりも日本において不動産賃貸業において意識しておかなければならないのは、借地借家法の適用を受ける賃貸借契約においては、賃借人(借りる側)には強力な保護を与えており、賃貸人(貸した側)からの契約書記載の期間満了による解約や一方的な解約には、「正当事由」という重大な制限が課されており、一度賃貸借契約を締結し引渡をしてしまうと、所有者(賃貸人)側の不動産利用には大きな制限が掛かるという点は十分に留意すべきである。そして、そのような賃貸借契約をする場合には、どのような内容にすべきかどうかは、将来の利用方法も考えたうえで、それが実現可能な賃貸借契約なのかどうかを検討し、それに沿った契約書作成等を弁護士の指導の下に行うことを強く推奨する。
また、従前から民泊事業を行っていた又は目指そうとしていたという事業者であれば、外国人をメインターゲットにした賃貸業を行うということも考えられる。日本における人手不足は慢性化しており、今後の解消のためには外国人労働者の確保が必要になるし、外国人留学生も増加している。しかしながら、そのような外国人労働者の住宅確保は難航する場合も多々ある。もっとも、元々インバウンド客をターゲットにして、室内での英語表記等にも対応していた民泊事業者等であれば、それをそのまま外国人賃貸業に流用することが可能な場合も多いと考えられる。例えば、住宅でのルールや家具家電の利用方法の英語・中国語等の外国語での説明文が既に存在する等はそのまま利用が可能であろう。ただ、その場合でも賃料の支払、原状回復費用の確保等を十分に賃貸リスクとして見極めることが必要になる。そのため、契約書(法的な効力のみならず、日本での賃貸生活のルール明確化、理解を促す工夫も必要である。)をしっかりと準備し、未回収リスクに備えた連帯保証人や保証会社(現に複数言語に対応した保証会社も多数存在する。)の利用も検討すべきことになることは十分留意が必要であり、弁護士への相談、指導を受けることも推奨される。
ウ 不動産を売却するという選択
そして、民泊事業からの撤退の方法として最も直接的な方法としては、当該不動産自体を売却処分するという選択がある。これは方法としては直接的かつ単純なものである。ただ、当該不動産を売却するとしても、売却先の探索、契約(仲介業者との仲介契約を含む。)、税務申告等が必要になることから、それぞれに応じた各種専門家への相談等を行いながら実施することを推奨する。
3 さいごに
特区民泊の新規受付停止というのは、インバウンド需要に沿って観光業を重視してきた行政政策の一つの大きな転換点であるといえる。しかし、今後の日本、特に大阪等において、IR事業の推進等に加えて、人材不足に伴う外国人労働者の受け入れという賛否両論あるが、いずれにしても日本人だけでなく外国人をも含めた対応が必要になることは間違いない。そして、従前、それらに対応してきた民泊事業者の資産、知識、経験等は必ず役立つものであるといえよう。そのような民泊事業者が、今後、どのような選択をしていくかということは、地域の活性化等において非常に重要であり、本稿がその選択における一助なればと願っている。
以上
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