金融庁が,2019年12月24日,東証の市場改革に関する金融審議会の報告書案を公表した。同月25日付日本経済新聞朝刊の記事によると,その概要は以下のとおりである。

1.市場区分

 1部・2部・マザーズ・ジャスダックの4市場区分をプライム・スタンダー ド・グロース(いずれも仮称)の3市場区分に再編

2.最上位市場(仮称・プライム)への上場基準

 時価総額250億円以上から流通時価総額で100億円以上に変更

3.赤字上場

 現状1部では原則認めていないが,プライムでは赤字上場も可能に

4.上場廃止基準

 2期連続で債務超過となれば上場廃止となるが,柔軟化

5.東証株価指数(TOPIX)

 現在1部の全銘柄で構成されているTOPIXを,主としてプライムの流通時価総額100億円以上の銘柄による構成に変更

6.一部上場企業のプライムへの移行

 1部に上場している企業は、流通時価総額100億円以上というプライムへの上場基準を満たしていなくても,希望すれば全社がプライムへ移行可

 その後の報道によると,金融審議会は,2019年12月25日,上記報告書案を概ね了承したという。

 

 今回の東証市場改革が目的とする市場の活性化という観点からみると,わかりづらい市場区分を,大企業対象のプライム,中堅企業対象のスタンダート,新興企業対象のグロースの3区分に再編するという市場区分再編,赤字上場の許容,上場廃止基準の柔軟化,TOPIXの構成銘柄の縮小は理解できる。

 しかし,1部に上場している企業が,プライムの基準を満たしていなくても,希望すれば全社がプライムへ移行できるとした点は,市場の活性化と矛盾している。

 

 上記記事によると,2019年4月末時点で,流通時価総額100億円を下回る1部上場企業は全体の14パーセントに当たる301社だという。上記の救済措置により,これらの低評価企業が最上位のプライムへ移行できることとなる。

 報告書案がTOPIXの構成銘柄を縮小したのは,こういった救済措置によるTOPIXへの悪影響を回避しようとするものなのかも知れない。

 

 東証1部上場企業は,2018年末時点で2128社,時価総額は2019年11月29日時点で639兆9630億8300万円であるのに対し,ニューヨーク証券取引所は,約2300社,時価総額は2019年8月末時点で約2400兆円に達しており,1社当たりの時価総額の差は歴然としている。

 そのような中で,1社当たりの時価総額の足を引っ張る企業のプライムでの温存を図ったことは,残念と言わざるを得ない。

 

 翻ってプライム上場基準を満たさない1部上場企業の立場に立って考えてみる。

 短期的にはさらなる株価の低落の懸念は否定できないが、今後プライム上場企業に対しては規制が強化され,監査の厳格化とそれに伴う監査報酬の増加,指名委員会等設置会社や監査等委員会設置会社への移行強制,社外取締役の3分の1以上の設置義務化や社外取締役選任基準の厳格化による社外取締役の確保難,内部監査体制強化とそれによるコスト増,SDGs・ESG対応強制による仕入れ・販売・管理等コスト増,コーポレートガバナンスコードへの対応強化,招集通知等の英訳,株主総会及び招集手続の電子化強制,統合報告書の強制等といったコストや手間の激増が予想される。

 このような状況の下,下駄を履いてプライム上場にしがみつくよりも,スタンダード市場で力を蓄え,堂々とプライム上場基準を満たした上でプライム上場を果たすのも一つの道ではないかと愚考する次第である。

 

                                                                                                                                                                                             2019年12月25日 弁護士 西口拓人