1 在宅勤務(テレワーク)時の諸問題
  新型コロナウイルスの蔓延により、現在、発症者が出たことに伴い時差出勤や在宅勤務(テレワークを含む。)を実施する企業が増加している。
  そこで、企業が時差出勤や在宅勤務を実施する際に発生する給与を含む諸問題について検討する。
  
⑴ 時差出勤における給与等の諸問題
  企業が、従業員に対して、時差出勤を指示する場合には、そもそも企業が従業員に時差出勤を指示できるのかどうかが問題になりうる。これは各企業がどのような労働形態を採用しているかによって異なる。
  ア 定時勤務を定めている企業
    所定労働時間として、午前9時から午後6時との定めがある企業のような場合においては、就業規則又は雇用契約書に所定労働時間について「業務の都合により変更することができる」との変更権が規定されているならば、当該業務命令に基づく変更として、時差出勤が容認されると考えられる。なお、業務命令権が存在する場合でも、不当な目的等による合理的な裁量の範囲を超える変更は許されないが、新型コロナウイルスの感染拡大の防止という正当な目的であり、かつ、現下のような緊急の状況があれば、その点で否定される可能性は著しく低いであろう。
 他方、就業規則や雇用契約書にそのような業務命令権の規定がない場合は、個別に従業員との合意の取得が原則となるが、その他に根拠を求めることになると、新型コロナウイルスの感染防止という高度の公益性及び緊急性に伴うものとして、上記業務命令権を規定する旨の就業規則の改正を行い、それを根拠に命令権が認められると考えることができるであろう。なお、その場合には、常時10人以上の労働者を使用する事業所においては、遅滞なく、所轄の労働基準監督署長に就業規則の就業規則の改正に伴う届出の手続きを行わなければならない(労働基準法89条)。
また、従業員が時差出勤を拒否した場合、業務命令違反として、拒否した社員が感染拡大の結果をもたらしたか等の結果の軽重等により、懲戒処分を検討することになるであろう。

  イ フレックスタイム制を導入している企業
    このような企業においては、そもそもコアタイム以外は、従業員の出勤時間は、本来は従業員の裁量に委ねられているが、その点に関する変更権が就業規則・労使協定書に定められている場合は、その規定に基づき変更し、それが存在しない場合は、時差出勤の場合と同様に就業規則等の改正という点を根拠にフレキシブルタイムにおける時差出勤を指示することになろう。

⑵ 在宅勤務時の問題
ア 在宅勤務の命令権について
  企業によっては、時差出勤ではなく、在宅勤務を指示する場合も存在する。
この場合は就業場所の指定の問題となるところ、雇用契約書に就業場所を指定してしまっている企業が多いと考えられるが、その場合は、就業規則に規定された就業場所に関する業務変更命令権の行使として認められることになる。そして、そのような規定がない場合の根拠としては、時差出勤と同様に高度の公益性・緊急性に基づく就業規則の改正に求めることになろう。
イ 在宅勤務時の残業代について
  次に、従業員が在宅勤務時に残業を行った場合の残業代についてどのように扱うべきかという問題も存在する。従前から在宅勤務を採用してきた企業であれば、それに伴う残業代を算出する方法について規定があり、それに従えば足りる。
  しかしながら、今回のような事態では、そのような規定がないが、緊急避難的に在宅勤務を指示する企業も多々存在すると考えられる。そのような企業においては、従業員が在宅勤務における就業時間(言い換えれば残業の有無)を把握する方法については時間がない中でも十分に検討しなければならない。
まず、企業としては、従業員に対して、在宅勤務を指示する前に、どのように在宅勤務時の労働時間を把握するかを明確に決定しておくべきである。その方法としては、在宅勤務の従業員に対してパソコン等の端末を貸与している場合であれば、そのログ記録を元に残業代を算出方法やクラウドを利用して職務を行っている場合にはそのクラウドの利用履歴を利用して残業代を算出する方法等が考えられるが、どのような方法を選択するにしても、ある程度客観性を有する記録を基礎にしなければ紛争の原因になる可能性があり注意が必要であろう。
さらに、不要な残業を実施させないために、可能ならば時間外には会社貸与端末にアクセスできないような措置を施したり、従業員の自宅のパソコンやスマートフォンを使用させる場合は、就業時間後の成果物の提出やアクセスサーバーへのアクセスを禁止することも必要となるであろう。
また、そのような基準を明確にしていたとしても、在宅勤務である以上、管理監督される状況になく、不必要な残業を行う従業員が発生する可能性があるため、企業としては、就業の開始と終了時点で従業員の場長に開始と終了をメール等で報告させ、残業が必要な場合は、事前に場長の許可を得なければならないということを周知し、指導を徹底しておく必要があるだろう。
なお、就業規則において事業場外みなし労働の規定が存在する場合は、原則として、当該規定に従い所定労働時間を勤務したものとして扱い残業代が発生しないという対応も考えられるところである。
最後に、在宅勤務においては、従業員が就業時間内に就労したかという点の把握も問題になるが、その点については毎日の業務日誌の作成や何らかの成果物の提出を求めるということも考えられるが、現実的には対応に苦慮するところであろう。
                             以上