新型コロナウイルス感染症の影響が拡大,深刻化の一途を辿っている。
外出自粛要請を受けて個人の行動が制約されていることはもちろん,事業者の方々におかれても,売上高の急減に見舞われており,資金繰りに窮されていることと思われる。
そこで,今回,金融機関に対する債務にスポットを当てて,事業者の方々が採り得る対応策を確認したい。
なお,本投稿は,令和2年3月29日までに公表された情報に基づいて行ったものであり,また,以下で紹介する制度以外の融資制度等がありうることもご了承いただきたい。
1 新規融資について
(1)経営環境変化対応資金(セーフティネット貸付)
日本政策金融公庫が企業の場合は7億2000万円(個人の場合は4800万円)を限度に低利で貸し付ける制度。
https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/07_keieisien_m_t.html
(2)セーフティーネット保証の対象拡大と要件緩和
国が融資額の100パーセントを保障するセーフティーネット保証制度(限度額は一般保証限度額2億8000万円と別枠で2億8000万円)の対象地域が全国に拡大され,対象業種も大幅に拡大した。その要件も,直近3ヶ月等との比較で売上高が減少していれば対象となる等のように緩和された。
https://www.meti.go.jp/press/2019/03/20200311007/20200311007.html
(3)危機関連保証の適用と要件緩和
今回の新型コロナウイルス感染症について危機関連保証(限度額は一般保証限度額,セーフティーネット保証と別枠で2億8000万円)が適用されることとなった。要件は上記(2)と同じである。
https://www.meti.go.jp/press/2019/03/20200311007/20200311007-1.pdf
(4)各自治体の融資制度
各自治体も新型コロナウイルス感染症対策の融資制度を設けている。
・東京都
https://www.cgc-tokyo.or.jp/leaflet/cgc_shingatakoronakinkyuyushi_leaf_2020-3.pdf#search=%27%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E9%83%BD+%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9+%E8%B2%B8%E3%81%97%E4%BB%98%E3%81%91%27
・大阪府
www.pref.osaka.lg.jp/kinyushien/korona/index.html
・大阪市
https://www.city.osaka.lg.jp/keizaisenryaku/page/0000369637.html
(5)民間金融機関
もっとも,上記(1)から(3)までのような制度には,中小の事業者の方々からの利用申し込みが殺到しており,その利用は困難な状況のようである。
そこで,これらの代替として,若しくはこれらの制度の適用が受けられるまでのつなぎ資金として,民間金融機関を頼らざるを得ないこととなるが,そのために従前どおり審査に時間がかかる上,担保も求められるのであれば経営が立ち行かない事業者の方々が続発することとなる。
このような状況を踏まえ,麻生太郎内閣府特命大臣(金融)は,令和2年3月6日付で,民間金融機関に対し,以下のような要請を発した。
「新規融資について,各金融機関の緊急融資制度の積極的な実施(担保・保証徴求の弾力化含む)に加え,政策金融機関や信用保証協会によるセーフティーネット貸付,セーフティーネット保証等の活用も含め,事業者のニーズに迅速かつ適切に対応すること」
「事業者に対する支援を迅速かつ適切に実施できる態勢を構築すること」
その上で,「金融庁から金融機関に対して,条件変更等の取組状況(金融円滑化法と同様に『貸付けの条件変更等の申込件数』,『うち,条件変更を実行した数』,『うち,謝絶した数』等)の報告を求め(銀行法第24条等による報告徴求),その状況を公表することとする。」としており,新規融資の申し込みに対する不合理な拒絶(謝絶)や担保要求等に対しては強力な牽制が行われることとなっている。(https://www.fsa.go.jp/ordinary/coronavirus202001/05.pdf)
そして,金融庁では,これらの対応を担保するため,「新型コロナウイルスに関する金融庁相談ダイヤル」(0120-156-811)を設置している。
2 既存融資について
既存の融資についても,麻生太郎内閣府特命大臣(金融)から民間金融機関に対して「既往債務について,事業者の状況を丁寧にフォローアップしつつ,元本・金利を含めた返済猶予等の条件変更について,迅速かつ柔軟に対応すること」という要請をした上で,上記1と同様,「金融庁から金融機関に対して,条件変更等の取組状況(金融円滑化法と同様に『貸付けの条件変更等の申込件数』,『うち,条件変更を実行した数』,『うち,謝絶した数』等)の報告を求め(銀行法第24条等による報告徴求),その状況を公表することとする。」としている。その担保のために「新型コロナウイルスに関する金融庁相談ダイヤル」が設置されているのも上記1と同様である。
3 各施策の効果
かつて,金融円滑化法が施行されていた期間は,「モラトリアム」と称して,既存の債務について返済猶予(リスケジュール,リスケともいう。)が広く行われた。この際,力を発揮したのが,金融庁が,各金融機関に対して「貸付けの条件変更等の申込件数」,「うち,条件変更を実行した数」,「うち,謝絶した数」の報告を求めた措置であった。
今回も,これを踏襲しており,事業者の方々の金融機関対応のハードルが相当程度下がったことは事実である。特に,金融円滑化法当時も機能した既存債務の返済猶予については,相当容易になっているはずである。他方,新規融資については,セーフティーネット保証や危機関連保証等の公的な制度の適用が受けられない限り,そう簡単ではないと思われる。
実際,金融庁が令和2年3月27日に公表した金融機関の対応事例においても,その大半が既存融資の条件変更等に関するものであり,新規融資については,その実行事例の公表はなく,即応体制が整備された事例の公表にとどまっている。
今後の金融庁や各金融機関の取り組みにもよるが,新規融資については,引き続き困難な状況が続くものと思われる。
セーフティーネット貸付の拡充や,セーフティーネット保証・危機関連保証制度の拡充,受付窓口の拡大等の施策が待たれるところであるが,各事業者におかれても,既存債務の条件変更に加え,月次試算表や事業計画書の策定を急ぎ,新規融資を容易にするような準備を進めておかれることを強くお勧めする次第である。
なお,資金繰りに窮している事業者の方々の中には,これら公的な制度による融資に時間を要するため,消費者金融やヤミ金に走る方が出てくることも想定される。万一,ヤミ金に手を出さざるを得ないとお悩みの時には,金融庁の「新型コロナウイルスに関する金融庁相談ダイヤル」に相談するほか,弁護士等に相談し,善後策の助言を求めることもお勧めする。
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