1 改正についての動き
昨今、空き家等の所有者不明の不動産の扱いが社会問題化しており、その対策の1つとして以前の記事において相続登記の義務化に関することを記載した。
それに加えて、所有者不明の不動産といっても単独所有のみならず、共有となっているが、そのうちの共有者が所在不明等の結果、当該不動産を円滑に利用することが出来ないという事態も発生していた。
その対策として、共有制度の見直しというかたちで民法改正がなされたので、その点について解説したい。
なお、各施行日は、相続登記の申請義務化については令和6年4月1日、共有制度の見直しについては令和5年4月1日となっている。
2 改正法の概要
改正法の主なポイントは以下のとおりである。なお、共有制度に関する改正点は多岐にわたるが、ここでは特に今後の不動産実務に影響が大きいと考えられる点に絞って記載する。
⑴ 所在等不明共有者の持分の取得
改正民法262条の2においては、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないことを要件として、裁判所は、共有者の請求により他の共有者に所在等不明共有者の持分を取得させる旨の裁判をすることができるとしている。
従前、共有者のうち、一部にでも所在等が不明な共有者がいる場合、共有物分割のための交渉ができず、訴訟を提起するにあたっても、共有物分割訴訟は、いわゆる固有必要的共同訴訟となるため、それも困難な場合が発生していた。
そこで、そのような場合に共有関係の解消を円滑に行うために定められたのが本条改正である。
この改正により、所在等不明共有者が存在したとしても、登記簿・住民票・戸籍(附票)等の公的な記録を調査しても所在等が不明であることを主張・立証することで、当該所在等不明共有者の手続きへの関与無しに、共有持分が取得することが可能になる。
もちろん当該裁判を利用するためには、一定の対価の支払いの必要性、一定の期間の公告(3箇月を下回らない期間が必要)、相続開始の時から10年を経過していないときは利用できない等の細かい要件は存在する。しかし、これらの要件は現実に共有状態にあり、かつ、共有者の中に所在等不明共有者がいる場合には、そこまで充足は難しくない場合も多いであろう。むしろ充足しない場合は通常の共有物分割訴訟等による対応が可能であると思われる。
そのため、本条の改正は、今まで共有関係の解消に困難を来たしていた者にとっては、共有物の分割を円滑にするのに十分に利用を検討する価値のある制度となっているといえる。
⑵ 所在等不明共有者の持分の譲渡
改正民法262条の3においては、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないことを要件として、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、所在等不明共有者以外の共有者の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として、所在等不明共有者の持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する旨の裁判をすることができるとしている。
共有物を第三者に譲渡(売却)することで共有関係を解消したいという場合は多くあるが、そのような場合、共有者全員が第三者との間で譲渡(売買)契約を締結する必要がある。しかし、共有者のうち一部にでも所在等不明共有者が存在している場合は、そのような契約を締結することができず、共有関係の解消が困難になるということになっていた。
そのような場合でもこの改正により、所在等不明者以外の他の共有者全員が特定の者に対して持分全部を譲渡することを停止条件として、特定の第三者に譲渡する旨の権限を得ることができることになり、所在等不明者がいても特定の第三者への譲渡により共有関係を解消することが可能となる。
この制度の利用のためにも所在等不明共有者の関与無しに手続きを進行するために一定の厳しい要件が課されており、その運用次第では制度の円滑な利用が阻害される可能性も残されている。しかし、本条の改正は、所在等不明共有者以外の第三者への譲渡という意思は合致しているにも関わらず、所在等不明共有者がいることによって身動きが取れなくなっていた共有関係に解消の手段を与えるものであり、検討の価値がある制度であることは間違いない。
3 改正後の制度利用について
上記で述べたとおり、改正後の制度の利用については、所在等不明共有者の関与無しに持分の取得又は譲渡ができるという共有関係解消のための強力な制度になっている。それゆえに、今まで所在等不明共有者の存在により滞っていた共有関係の解消を大きく前進されるものであると考えらえる。
もちろん当該制度を適正に利用することにより今まで活用されていなかった不動産を活用する機会も増加することが予測され、その意味では不動産事業者にとってもビジネスチャンスとなることも考えられる。なお、当該制度は所在等不明共有者の関与無しに実行されるものであるため、それを悪用するようなことがあってはならないことは言うまでもない。
当該制度を適正に利用することで、空き家問題の解消及び今まで活用されていなかった不動産が積極的かつ円滑に活用されることを祈念するばかりである。
最後に余談になるが、今回の改正で対応されたのは、所在等不明共有者に対する持分の譲渡・取得に関する点であるが、実際には、共有者の中に高齢であり認知症になっている状況にあり現実的にそのままでは共有物分割の交渉等が出来ないという場面の多く存在する。そのような場合には成年後見制度の活用が期待されるところであるが、共有物分割のために成年後見制度を利用するということは金銭的にも時間的にも多大なコストが発生するものであり、そのような方法を経ての共有物分割には大きなハードルがあるといえる。ただ、これを原因として共有物分割を円滑に行うことができず、結局は所在等不明共有者の場合と同様に、いわゆる塩漬け不動産が生まれ、空き家問題等に繋がっているということがあり、今後は、そのような場合にも対応できるような改正がなされるべきであると個人的には考える次第である。
以上
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