1 はじめに
  昨今、メジャーリーグの大谷翔平選手に代表されるようにスポーツ界で知名度及び人気が高い選手を企業の広告採用するこ  とで、企業のイメージアップ及び集客に大きな影響力を与えるということが周知の事実になっている。しかしながら、既に日本国内でメジャーなスポーツ選手や芸能人を新たに広告採用しようとする場合、その契約料等は破格な値段となってしまい、一部の大手企業以外には、契約を行うことは困難な状況となってしまっている。
  一方、日本国内での人気スポーツという枠にとらわれずに、世界で人気のスポーツという分野で注目を集めるのがエレクトロニック スポーツ(Electoronic Sports 通称「eスポーツ」)という分野である。eスポーツは、現在、日本ではようやく認知され始めた状況にとどまっているが、世界においては、日本での人気とは比較にならないほどの人気と競技人口のある一大マーケットとなっている。このように、世界では人気・認知度が高いeスポーツであるが、日本ではゲーム=遊びというイメージが強いためか、マーケットとしての価値は低いままにとどまっている。
  もっとも、このように世界での爆発的な人気及び競技人口と日本国内とのギャップが存在している今こそ、非常にリーズナブルで大きな宣伝効果を得ることのできる広告宣伝が期待できる。
  そこで、本稿では企業のeスポーツを活用した広告戦略や法的留意点等について検討したい。
  なお、著者は、必ずしもeスポーツについて専門的な知見を有しているものではないため、eスポーツにかかる専門的な知見等と乖離がある場合はご容赦願いたい。

2 世界と日本におけるeスポーツ選手の待遇差
  既に述べたとおり世界ではeスポーツもメジャーなスポーツ競技と同程度の認知度と人気を博しており、世界大会ともなれば賞金総額が300万ドル(1ドル=150円換算で4億5000万円)を超えるような大会もあるほどの人気ぶりである。一方、日本国内では、eスポーツがマイナーな影響で、大会を資金面で支える企業も少なく、また協賛額も低いため、賞金も低い状況にある。
  また、このように日本ではeスポーツがまだまだマイナーであるため、プロ選手自体少なく、その数少ないプロ選手でさえ十分な待遇を受けられていないようである。プロ選手でさえ十分な待遇を受けられていないことから、アマチュアの選手はさらに厳しい状況に置かれている。eスポーツには高額なゲーミングPC、モニター等の設備、それらを維持するための空冷設備、維持管理費等の資金が必要になるが、日本国内では一部のプロ選手を除き、大部分の選手がそれらを維持することさえままならない状況にある。
  しかしながら、裏を返せば、既に述べたとおりeスポーツの世界的な人気度から考えると、特に日本国外で事業を展開するグローバル企業等におかれては、世界で活躍しているか、その活躍が期待されるeスポーツ選手のスポンサーとなることは、非常にリーズナブルな費用で日本国外での大きな広告宣伝効果を得ることが期待できるのである。
まずはeスポーツのスポンサーとなることの具体的なメリットを具体的に検討する。

3 企業におけるeスポーツ選手とのスポンサー・広告契約の有用性
⑴ 日本人eスポーツ選手と先行して契約することのメリット
  日本国内においてもeスポーツの大会は増えつつあり、賞金額も増額傾向にあるが、世界大会等で世界を舞台に活躍する一部の選手以外は、その活動のための資金捻出に苦労をしており、場合によっては配信や仕事等を掛け持ちしながら選手活動を維持している選手も多く、必ずしも競技やトレーニングに集中することができない状況にある。この点、選手達が少なくとも生活費稼ぎに時間を取られない程度の環境に置かれれば競技やトレーニングに集中でき、日本国内の大会はもちろんのこと、メジャーな世界大会においても優秀な成績を収めることが期待できる。そのように「お買い得」な日本選手のスポンサーとなる利点を活かせれば、安価で大きな広告宣伝効果を得ることができる。このように、現時点では、日本国内のeスポーツ選手は「お買い得」であり、特に日本国外で事業を展開する企業におかれては、特に好成績が期待できる選手を積極的に発掘してスポンサーとなることをお勧めしたい。
⑵ 観戦のハードルの低さと宣伝効果
  eスポーツの大会においては、外のスポーツ競技と同様に、競技会場での観戦も可能であるが、eスポーツという特性上ウェブによる観戦との親和性が高く、その手軽さから、実際、メジャーな大会では、ウェブによる視聴者数はリアルタイムの視聴者だけでも同時視聴数百万を超えることもあるそうである。これに事後的な視聴者数を加えれば、観戦者数は莫大な数に上る。しかも、他の運動競技のスポーツとは異なり、eスポーツの場合、選手の動きが小さく、例えばユニフォームに企業ロゴを入れることができれば、観戦者の目に触れる時間も格段に多くなることが期待できる。
⑶ 競技人口市場の巨大性
  eスポーツの最大の市場は競技人口の最も多いアメリカ合衆国とされているものの、中華人民共和国やヨーロッパ諸国もそれに匹敵する人気がある。また、脱石油を掲げるサウジアラビア王国では2025年7月に賞金総額100億円のeスポーツのワールドカップが開催されており(参照:昨年より存在感を増した「eスポーツワールドカップ2025」を振り返る | トピックス | extreme 株式会社エクストリーム)、中東も含めた巨額の賞金がかかる大会はその人気の過熱ぶりを示しているといえ、さらなる市場の拡大が見込まれる。このように、eスポーツは、競技人口や視聴者数の莫大な巨大市場であり、そこで広告宣伝を行えば、極めて認知度の獲得と広告宣伝効果を得ることができよう。
⑷ 日本人選手の優位性・親和性
  日本人という概括的な括りで述べることは語弊があるかもしれないが、その点をお許しいただくと次のような日本人選手の優位性も存在し得る。
日本は、銃器類の所持が違法であるため銃器類を用いたeスポーツが不得意との指摘はあるものの、多くの人気ゲームの発祥地であり、幼い頃から多くのゲームに触れる機会のある国柄である。そして、eスポーツにおいて重要とされるゲームの操作のための強い集中力と手先の器用さにおいても元来日本人の得意とする分野であるといえよう。
このようにeスポーツにおける日本人選手の優位性・親和性という点からしても、潜在能力のある選手がeスポーツ競技に集中できる環境があれば、世界でも大きく活躍できる可能性を十分に秘めているといえる。そして、優秀な日本人選手を発掘することが出来れば、繰り返しになるが大きな先行者利益を獲得できる。

4 留意点
  一方、このようなeスポーツ選手とのスポンサー・広告契約を行うためには次のような点には十分に留意しなければならない。
⑴ スポンサー・広告契約書の作成
  企業としては、eスポーツ選手との契約もあくまで営業活動の一環であり、その契約においてはしっかりと内容を明確にした契約書を作成しておく必要があることはいうまでもない。
  そして、企業としては、eスポーツ選手自体が重要な広告塔となるため、ユニフォームにおける企業ロゴのサイズや位置を指定するほか、試合、メディア出演時あるいは配信活動時におけるユニフォーム着用や企業商品の使用等を義務付ける等の定めは不可欠がある。また、eスポーツという競技特性とも親和性の高いと考えられる選手自体の二次元・三次元キャラクター化の権利等についても明確化しておくことが必要である。さらに、広告塔であることから求められるイメージ保持の規定も必要である。さらには、これらに違反した場合の違約金条項も必要となる。もちろん、海外展開時のことも想定した規定も盛り込んでおくことも必要である。なお、eスポーツ選手の中には未成年者も比較的多く含まれているため、そのような未成年者との契約の方法にも留意は必要である。
  他方で、選手に対する規制ばかりではなく、契約金等の待遇や日々の活動費用の負担といった金額面も明確に定めるべきことも当然である。この金額面については、既に知名度のある選手かこれから潜在的に活躍が期待される選手かによって規定の方法も変わってくるであろう。例えば、既に知名度のある選手であれば、当然、契約金等も高額となるほか、移動手段やそのレベル、宿泊施設のレベルやこれらの費用負担等を含めて細かく定められることとなろう。一方、まだ実績が十分ではない選手については、日常生活に支障を来さず競技やトレーニングに集中できる程度の契約金等を支払うことは必要だとしても、移動手段や宿泊先のレベルやその費用については必ずしも選手に有利に定める必要まではない。
とはいえ、日本人選手の場合、まだ現時点ではプロ選手でもさほどスポンサー費用は嵩まないものと思われるが、今後活躍が期待される選手を発掘できれば、さらに合理的なスポンサー費用で宣伝効果を期待することができるため、このような選手の発掘こそがeスポーツのスポンサーとなることの醍醐味であるといえる。場合によっては、当該選手を企業の従業員として雇用するという方法も考えられるが、雇用とするか業務委託等の準委任とするかは適用法制が大きく異なるため慎重に判断する必要がある。
  もっとも、これは潜在的な選手を不当に安い金額で早期に契約で縛ることを決して勧めるものではなく、将来の活躍時のインセンティブも想定したものである必要があるということである。例えば、ゲーム内部のランキングや大会順位等の成績によるインセンティブ条項(賞金の分配割合等を含む。)や契約改定の協議条項等を明確に定めるといった対応を採ることが求められる。こういった配慮もしたうえで、日々の選手競技活動にも生活安定が加わることで、大きく実力が開花するeスポーツ選手も多く誕生するはずである。

⑵ スポンサー等の対象とするゲームの選別の重要性
  ここまでeスポーツという分野をまとめて述べてきたが、企業におかれては、スポンサー等となる選手が協議するゲームを選別することの重要性も忘れてはならない。まず、ゲームの種類によって、人気のある国、競技年齢層、観戦者の年齢層が大きく異なる。また、ゲームの種類、例えば人や動物を殺めることを中心とするようなゲームを対象とするeスポーツの場合、その選手のスポンサーとなることで、却って企業イメージが損なわれることにならないかについても慎重に検討することが求められる。
  そうすると、企業としてもeスポーツ選手とのスポンサー・広告契約を締結するにあたっては、目的とする広告効果を得るための調査を十分に行い、対象ゲームを選別することは極めて重要である。

  以上、企業がeスポーツの日本人選手のスポンサーとなることのメリットと留意点の一部を述べたが、本稿がトピックであるという特性上、全ての留意点を網羅できているわけではない。しかも、今後AIが組み込まれたゲームや、AI選手の登場も想定され、今後の展開によっては、スポンサーのメリットも変化し、さらには留意点も変化する。したがって、スポンサー対象とするeスポーツの選定や、契約等の締結に当たっては、弁護士に相談することを強く推奨する。なお、昨今ではAIを利用した契約書作成を進めている企業も増えているが、現状のAIでは契約を行ううえでの事実関係等を正確に反映した契約書作成とは未だほど遠いレベルであり、最終的な確認は弁護士にされることを強く推奨する次第である。

4 さいごに
  本稿では、eスポーツにおける企業参入の期待度、潜在的需要、その際の留意事項について記載をしていきた。eスポーツ業界は、国内での人気度・知名度と海外で人気度・知名度には非常に大きな開きがある状況であり、そのような現時点でのギャップを企業としてはチャンスとして活用することには大きな効果と影響があるものといえるため、是非その点を検討してもらいたいところである。ただ、当初から大きなスポンサー契約することに抵抗がある企業もあるかとは考えられる。そこで、例えば、このようなeスポーツ業界への関心を有する企業としては、最初は国内eスポーツ開催イベントの小規模なスポンサーとして参加し、そこで無所属でありながら活躍又は将来性のある選手に何らかの交渉やサポートを試みるという入口もあり得るところと考えられる。
そして、本稿が、少しでもeスポーツ産業の拡大、そして、それに関与する企業の増加に寄与することが出来ればと願ってやまないものである。
                                                                                    

                                                      以上