1 改正についての動き

  相続登記の義務化、所有者不明土地に関する関連法案が、令和3年4月21日に参議院本会議で可決され、成立した。

  これにより、従前は相続が発生したとしても相続人に登記申請義務が存在しなかったが、一定の期間内に相続登記義務は課され、管理が困難な土地については一定の要件を充たすことで国庫へ移転することができる制度も創設される。

  当該制度の創設により、相続

2 改正法の概要

  改正法の主なポイントは以下のとおりである。

⑴ 相続登記の義務化

  不動産の所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により当該不動産の所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。

  当該義務に違反した場合は、10万円以下の過料に処せられる。

⑵ 相続人申告登記(仮称)制度

  相続登記の義務化に伴い、相続登記を従来よりも簡便にするため、相続登記の移転登記を申請する義務を負う者は、登記官に対し、所有権の登記名義人について相続が開始した旨及び自らが当該所有権の登記名義人の相続人である旨を申し出ることができ、当該申出があったときは、登記官は、職権で当該申出をした者の氏名、住所等を所有権の登記に付記することができる。

  そして、これをすることにより相続登記の義務は果たされたとみなされるため、別途相続登記を行う必要は無くなる。

⑶ 土地所有権の国庫への帰属の承認等に関する制度

  土地の所有者は、法務大臣に対し、その土地の所有権を国庫に帰属させることについて承認を求めることができる。

  そして、法務大臣は、承認申請にかかる土地が次のいずれにも該当しないと認めるときは、その土地の国庫帰属を承認しなければならない。

  ① 建物の存する土地 ② 担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地 ③ 通路その他の他人による使用が予定される土地として政令で定めるものが含まれる土地 ④ 土壌汚染対策法第2条第1項に規定する特定有害物質(法務省令で定める基準を 超えるものに限る。)により汚染されている土地 ⑤ 境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地 ⑥ 崖(勾配、高さその他の事項について政令で定める基準に該当するものに限る。)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの ⑦ 土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地 上に存する土地 ⑧ 除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に 存する土地 ⑨ 隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分を することができない土地として政令で定めるもの ⑩ ①から⑨までに掲げる土地のほか、通常の管理又は処分をするに当たり過分の費 用又は労力を要する土地として政令で定めるもの

  さらに、土地所有者は、国庫に対して、当該土地の管理料10年分を納付して初めて土地所有権を放棄することができる。

3 考えられる問題点

⑴ 過料の要件

  相続登記の義務(不動産登記法76条の2等)に違反した場合は、10万円以下の過料に処せられる(新不動産登記法164条1項)。ただ、その要件として、従前の過料の条文に「正当な理由がないのに」その申請を怠ったときというように、正当な理由の不存在を要件とする規定へと変更されている。

  すなわち、正当な理由があれば、今回の相続登記義務化の施行後も相続開始を知ったときから3年以内に相続登記申請(又は申告)をしなくても良いということになる。

  問題は「正当な理由」とは何かということである。

  「正当な理由」については正確な定義が無いため、現時点では不明瞭であるが、相続登記義務化の法律変更を知らなかったことや相続登記の方法が分からなかった等の理由はまず許されないだろう。

  では、遺産分割が未了であることを理由に3年を経過した場合は正当な理由に該当するのか。この点については、相続登記義務化の背景には遺産分割未了により相続登記未了が発生していたことがあり、遺産分割の期間についても一定の規定が新たに設けられるということ、及び、遺産分割未了であっても法定相続分に基づく相続登記の申請は可能であること等からすると、遺産分割が未了であることも相続登記を期間内にしない正当な理由としては認められないと考えられる。

  以上からすると、過料の制裁を免れるための「正当な理由」については相当厳格に判断され、認められる場合は極めて限られていると考えるべきである。「正当な理由」を緩やかに判断してしまうと、相続登記義務化自体が骨抜きにされてしまうことからも、そのような運用がされるであろう。

⑵ 過料の遡及効・数字相続の場合の義務の範囲

  附則第5条6項では、相続登記義務化の施行日前に所有権の登記名義人について相続の開始があった場合についても適用される、とされている。

  すなわち、義務化前の相続についても原則として、施行日から3年以内に相続登記を行う必要があるということになる。

  施行前を含むと相続登記がなされていない不動産の数は膨大になるため、実際に、どこまで調査がされ、過料に処せられる運用になるのかは現時点において未知数である。

  また、施行前の相続未登記の不動産については、何代にもわたって相続が発生している、いわゆる数次相続が発生しているにもかかわらず放置されている土地も相当数存在することからは、それを現在の相続人に対して、施行後3年以内に相続登記をさせるというのは相当にハードルが高いように考えられる。

  そうすると、現実的には、基本的には施行後に発生した相続を中心に相続登記を促し、それでも相続登記をしない者に対しては、過料の制裁を課すということが考えられよう。

  但し、相続登記の義務化がある程度浸透した後には、施行日前に発生した相続に対しても義務の履行を求めていく運用がなされる可能性がある。

  したがって、いずれにせよ相続登記は『いつかはしなければならない』ということになることは明らかであり、そうであれば新たな相続が発生する前に相続登記をしておくことが肝要といえよう。

⑶ 相続人申告登記(仮称)の簡易性があるかどうか。

  相続登記の義務化に伴い、相続登記をより簡易に行うことができるために、相続人申告登記(仮称)が新たに設けられる。

  これは義務化とするだけでは、登記申請が一般市民からすると簡単にはできないため、登記申請をより簡便にした制度であるとされている。

  しかしながら、この制度により登記が簡便になるかは疑問が存在する。

  相続人申告登記(仮称)では、相続人が登記官に対して、相続が開始した旨及び自らが相続人である旨の申出がなされれば、登記官が職権で相続登記を行うという制度とされる。

  ただ、その申出の際には、相続人側において相続開始及び自らが相続人であることを示すための戸籍収集等を提出しなければならない。

  もっとも、相続登記において一般市民において最も困難を伴うのが、遺産分割が紛争化することを除くと戸籍の収集と判読である。戸籍の収集及び判読には、それなりの知識と経験が必要になる。

  そうすると、その点の負担は変わらず申出人たる相続人側にあるとすると、相続人申告登記(仮称)が創設されたとしても、さほど従来の相続登記と負担は変わらず、相続登記の義務化に伴う救済措置としては弱いと思える。

  この点については、より簡便な方法を取らなければ促進は困難であると考えられる。ただし、これを簡便にしてしまうと誤った相続登記が発生し、登記の公示機能を害してしまうおそれがあるため、そのバランスは難しいのであろう。

⑷ 土地所有権の国庫への帰属の承認に関する制度の問題点

  土地所有権の国庫への帰属には上述したとおり一定の要件が存在する。この一定の要件が厳しすぎるように思える。

  まず、建物の存する土地は対象外とされてしまっており、それでは管理出来ない建物付き土地を処分できず、問題となっている空き家対策にはならない。そもそも解体費用が支出できないため放置されてしまっている不動産も多々ある中で、国としては建物にかかる所有者責任を回避したい意図があるのだろうが、対象がこれにより非常に限定されてしまう。

  次に、土壌汚染土地も対象外とされる。しかし、むしろ土壌汚染土地を放置されていることこそが問題である以上、早々に国庫に帰属させて何らかの対応を取る方が安全にも資すると考えられる。

さらに、「土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地」は対象外とされている。すなわち、この規定からすると、山林は対象外になると考えられる。しかし、実際に土地所有権を放棄し国庫への帰属を望む需要が高いのは、山林のような不動産が相当数に上る。それにもかかわらず、山林を除くような規定にしては、この制度自体の意味が薄れてしまうと考えられる。

以上の他にもいくつか要件が存在するが、総じて検討すると、結局のところ、国庫への帰属の制度に利用できる土地は、原則として、『更地で綺麗な土地』に限定されてしまっているといえる。

しかしながら、更地で綺麗な土地であれば、場所により相場に差異はあれど、所有者(相続人)にとっても売却が容易であり、わざわざ国に10年分の管理料を治めて買取を希望するものはほとんど存在しない。

したがって、どのような運用がされるかは定かではないが、要件を見る限りは、当該制度は実際には機能しない制度になってしまっているのではないかと考えられる。

 

                                 以上