⑵ 相続登記の義務化における問題点について
また、相続登記の義務化においてハードルとなることが予測される点をいくつか指摘しておきたい。
ア 相続発生の把握の問題
まず、商業登記の場合は、役員任期や休眠会社規定という登記記載と法律の上限規定から法務局が登記義務懈怠を最低限把握することが可能であるが、一般私人の相続の場合に問題となるのは、法務局がどのように相続登記義務が発生していることを把握するかという点である。
すなわち、私人の場合は、「いつ・誰が・どの不動産を保有して死亡したか・相続人は誰か」等の点をどのように把握するのかという非常に難しい問題がある。
所有者不明土地の発生を防止するという困難な問題を防止するためには実効性のある登記義務を定める必要があるが、その前提たる上記の相続の把握という点についてどのような施策が施されるのか(又はなされないのか)という点は注目されるところであろう。
また、相続の発生すら相続人が知らない場合の扱い(代襲相続人や先行相続人が相続放棄したことにより相続人となっていた場合等)についても併せて気になるところである。
イ 遺産分割が長期化した場合の問題
さらに、遺産分割協議が難航した場合、相続登記義務が規定されていない場合は、未登記のまま遺産分割協議の終了後に、遺産分割結果に基づいて直接登記をするという方法が一般的であった(これにより法定相続分による相続登記を経ない分の登録免許税が発生しない。)。しかしながら、相続登記を一定期間内に実行しなければならないという規定になった場合は、その期間内にまずは法定相続分に基づく相続登記をしなければならないことになる。そうなると、今までは省略できていた分の登録免許税が余計に発生することになってしまうという問題点がある。
もっとも、本来の不動産登記の趣旨である権利関係を公示するというものからすればそのような取り扱いが本来の姿ではあるかと考えられるが、そのような遺産分割の長期化の場合の扱いについても注目されるところである。

⑶ 相続登記の義務化に期待できる点
他方、相続登記義務が規定された場合の恩恵についても考察しておきたい。
相続登記義務が法律で規定された場合は、今まで眠っていた不動産が流動する機会が増加することは間違いない。
この場合に活躍が期待されるのが、行政や相続手続きを扱う仕業のほかに、不動産流通業界にあると考えられる。
不動産流通業界では、相続発生時が空き家・土地等が流通する絶好の機会であり、それを把握できるチャンスが格段に増えることが予測されるし、また、進まなかった相続の話し合い(遺産分割協議)を進め不動産を売却する等の流通を促進する契機にもなる。
そういった見地からすると、むしろ相続登記義務を進めるポイントとしては、過料のような制度を設けるという点ではなく、不動産会社等の相続人に近い関係にある者が、法律改正を機に相続が開始されている土地を調査し、それらの者らに対して相続登記の履行義務の存在を周知するなどの直接のアクションを起こす契機となり、それに基づき一般私人が相続登記の義務を知り、より相続手続きの完了を促しやすくなったという点にあると考えられる。
例えば、不動産会社等が相続登記が法律上の義務となったことを周知・広告しながら営業活動を行うことで、放置されていた相続が表面化し、相続人において相続を進めるというモチベーションが与えられる可能性がある。
その場合は、もちろん弁護士・司法書士等の相続にかかわる士業と連携しながら、合法的に相続調査・遺産分割協議を進めるのかという点も重要になり、より仕業との連携が重要性を増すことは言うまでもない。ここでは、法律知識に乏しい不動産会社が自ら非弁行為的に遺産分割協議をすすめるようなことを防止しなければならない。
以上のような見地から、当職としては、相続登記の義務化がなされた場合の不動産流通業界の動きに注目する必要があり、かつ、その活動がどのように所有者不明土地の改善につながるのかという点を興味深く考察したいと考えている。

また、蛇足であるが当職の一見解としては、相続登記の義務化のより履行を推進する方法としては、過料のような制裁よりも、一定期間内に登記義務を履行した場合の減税措置などの経済的な利益により誘導する方法がより効果的ではないかと考えられる。