2022年11月にアメリカ合衆国のOpen AI社が「ChatGPT(Generative Pre-trained Transformer)」を公開したことをきっかけに、生成AI(Artificial Intelligence)の利活用が急速に広がっている。
そして、中華人民共和国等では、遂に、生成AIによるライブ配信型の通信販売が始まっている。より具体的には、生成AIによって作られたキャラクターが、商品の使用を実演しているようなリアルな映像や商品説明、売り込みまで、24時間、365日休むことなく映像が流されている。
私の知る限り、現状、わが国では上記のような生成AIによるライブ配信型の通信販売は行われていないようであるが、生成AIの急速な拡大状況を踏まえると、今後、わが国でも上記に近い内容の通信販売が始まる可能性は決して低くないと思われる。
そこで、以下では、わが国において、生成AIによるライブ配信型の通信販売の問題点を検討する。
1 ライブ配信の特徴
生成AIによってライブ配信が行われる場合、当然のことであるが、即時に公開されてしまうため、権利者の許諾を得る、公開を取り止める、問題となる部分を削除又は修正するといった対応を採ることができない点に特徴がある。
そのため、他人の著作物と類似する画像や映像を流したり、内容虚偽の説明を行う等した場合、即時に著作権侵害や不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」という。)等に抵触するリスクがある。
以下では、著作権侵害や景表法違反のリスクについて一考する。
2 著作権侵害の問題
生成AIによるライブ配信型の通信販売時に他人の著作物と類似する画像や映像が流れてしまった場合はどうか。
ここでは、他人の著作物と類似していることが前提となっているため、著作権の侵害となるか否かは、依拠性(既存の著作物に接して、それを自己の作品の中に用いること)の有無によって左右される。以下、主体ごとに検討する。
(1)生成AIの開発者の責任
著作権法30条の4では、「著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合」、「情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。)の用に供する場合」、「前二号に掲げる場合のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあつては、当該著作物の電子計算機における実行を除く。)に供する場合」には、著作権者の許諾が不要とされている。つまり、例えば、生成AIの開発者が、著作物を学習用データとして収集・複製して学習用データセットを作成する、データセットを学習に利用してAIを開発するといった場合には、著作権者の許諾が不要となる。
そして、そのようにして開発された生成AIを利用してライブ配信型通信販売が行われた際に著作権侵害が発生したとしても、生成AIの開発者が責任を負うことは原則的にないということになろう。
もっとも、生成AIが、学習のために与えられた著作物が特定の人物の著作物であった場合や、そこまでいかずとも少数の著作物であった場合等、その生成AIによって生成される画像や映像が特定の人物の著作物や少数の著作物と類似するリスクの高いような場合は、その生成AIの開発者が、これらの著作物に依拠しているといえるし、著作権法30条の4ただし書にいう「当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合」に当たり許諾がない限り著作権を侵害することとなるおそれがあるものと思われる(もっとも、著作権法119条以下の刑事責任が問われることは考えにくく、損害賠償等の民事上の責任にとどまることになろう。)。
(2)運営者の責任
次に、生成AIを利用してライブ配信型通信販売のサイトやチャンネルを運営している者はどうか。
このような運営者が、ライブ配信に当たり、他人の著作物又はこれに類似した画像や映像を利用した場合は、まさに他人の著作物に依拠しており、著作権侵害となることは問題がない。
これに対し、ライブ配信の運営者が、出品者から提供された画像や映像を、それが他人の著作物であることを知らずにそのまま生成AIに利用させた場合は、依拠性に欠けるため、著作権侵害とならない可能性が高いものと思われる。もっとも、運営者としては、規約や契約書等で第三者の著作権を侵害する画像や映像の提供を禁止する等の対応を採ることが必要不可欠である。また、画像や映像の内容から著作権侵害が疑われる場合には、その利用に当たり、出品者に対し、著作権の有無や著作権者から許諾を得ているか等の確認をすることが必要で、この確認を怠った運営者は、刑事責任が問われることはないとしても、損害賠償請求等の民事上の責任を負うおそれがある。
もっとも、生成AIについては、現状、裁判例がある訳でもなく、学者の見解も割れているため、その生成物が他人の著作物と類似していた場合において、依拠性がどのように判断されるのかは不透明である。運営者の立場で著作権侵害を指摘された場合は、早めに弁護士に相談されたい。
(3)出品者の責任
出品者については、出品者が運営者に対して提供した画像や映像が他人の著作物に類似していた場合において、その画像や映像がそのままライブ配信されたときは、他人の著作物と類似することを知っていた場合は著作権侵害となる。
また、仮に出品者が他人の著作物と類似することを知らなかったとしても、その内容から著作権侵害が疑われる場合は、刑事責任を問われることはないとしても、損害賠償等の民事上の責任を負うリスクがある。もっとも、仮に出品者が他人の著作物と類似することを知らず、そのことに過失もないような場合は、民事上の責任もないこととなろう。
3 景表法違反の問題
景表法5条1号では、「商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの」(優良誤認表示)、景表法5条2号では「商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの」(有利誤認表示)を禁じている。なお、景表法7条2項は,「当該表示をした事業者に対し、期間を定めて、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができる。この場合において、当該事業者が当該資料を提出しないときは、同項の規定の適用については、当該表示は同号に該当する表示とみなす。」として.表示の裏付けとなる合理的な根拠資料が提出できなければ優良誤認表示や有利誤認表示をしたものとみなすこととしているため、注意が必要である。
以下では、生成AIによるライブ配信型の通信販売時に優良誤認表示や優良誤認表示があった場合について生じうる措置命令(景表法7条)や課徴金納付命令(景表法8条)を受けるリスクを主体別に検討する。
(1)生成AIの開発者の場合
まず、生成AIによるライブ配信型の通信販売時に優良誤認表示や有利誤認表示があった場合、生成AIの開発者は措置命令等を受けるか。
上記のとおり、優良誤認表示や有利誤認表示は、「商品又は役務の品質、規格その他の内容」の「表示」を対象としている。そして、開発者は、表示の主体ではないため、措置命令等を受けることは通常考えにくいと思われる。
(2)運営者の場合
次に、生成AIを利用してライブ配信型通信販売のサイトやチャンネルを運営している者は、生成AIによるライブ配信型の通信販売時に優良誤認表示や有利誤認表示があった場合、措置命令等を受けるか。
この場合は、運営者の「優良誤認表示」や「有利誤認表示」への関与の度合いによって措置命令等のリスクが異なることとなる。出品者が表示の内容や表現方法を指定していた場合や、裏付けのない商品等のデータを提供していた場合であっても、運営者が出品者から言われるがままにこれらを生成AIに入力した場合等.実質的に出品者とともに表示の主体となっていると評価されるときは、課徴金納付命令は別として、措置命令を受けるおそれはあるものと思われる。
なお、上記リスクへの対応としては、実質的な表示の主体と評価されないようにするため、サイトやチャンネルの枠のみを出品者に販売し、生成AIへの入力を出品者にさせる方法も考えられるが、この方法の場合、運営者がサイトやチャンネルを適切に管理できず、著作権侵害のほか、名誉棄損や信用棄損等といった他のリスクが増大することとなる。したがって、上記リスクへの対応としては、出品者に優良誤認表示や有利誤認表示を行わないよう誓約させた上、生成AIへの入力内容についても事前に確認することが求められる。
(3)出品者の場合
生成AIによるライブ配信型の通信販売の出品者は、優良誤認表示や有利誤認表示があった場合、措置命令や課徴金納付命令を受ける。なお、優良誤認表示や有利誤認表示の成立には、故意・過失を問わないため、出品者に故意がなかったとしても措置命令や課徴金納付命令の対象となる。
4 さいごに
上記では、現在他国で始まっており、今後わが国でも始まる可能性がある生成AIによるライブ配信型通信販売について、開発者、運営者及び出品者を想定して、著作権侵害と景表法違反のリスクに限定して考察を試みた。未だわが国では始まっておらず、実際にどのような形で現実化するのかも不明である上、特に生成AIと著作権との関係について不透明な部分が多いため、上記はあくまで参考程度にとどめて頂きたい。具体的に上記のような事業を開始する場合や、著作権侵害の主張を受けた場合等については、弁護士に相談されたい。
わが国では、生成AIの利活用が遅れているとの報道もあるが、事業者の方々におかれては、生成AIを適切かつ積極的に利活用することによって業績を拡大されることを祈念してやまない。
以 上
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