1 はじめに
  現在、新型コロナウイルスの蔓延により、東京・名古屋・大阪・兵庫・福岡等の大都市圏を中心に感染者の増加が止まらず、緊急事態宣言が延長された状況にある。
  緊急事態宣言が延長されたことにより、既に在宅勤務(テレワーク・リモートワーク)を実施している会社は引き続き継続することになり、未だに実施までは出来ていない会社でもこの事態を早期に終息させるためにも導入を検討せざるを得ない状況になっていると考えられる。
  もっとも、新型コロナウイルスという突然の緊急事態により在宅勤務が実施され、かつ、それが長引くことにより会社としては当初予期していなかったトラブルが発生する可能性がある。
  具体的には、在宅勤務としてのテレワークやリモートワークを利用することにより発生するセクシャルハラスメント(以下「セクハラ」といいます。)やパワーハラスメント(以下「パワハラ」といいます。)の問題が挙げられる。
  もちろん会社としては従業員に対する安全配慮義務をどのように果たす必要があるのかを検討しておく必要がある。
  
⑴ セクハラ・パワハラの該当性
  まず、セクハラの定義としては、「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること」とされている(男女雇用機会均等法第11条)
  また、パワハラについての定義としては、「優越的な関係に基づいて(優越性を背景に)、業務の適正な範囲を超えて行われ、身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること」とされている。
  いずれも定義としては曖昧な点が存在する定義であるが、昨今ではセクハラ・パワハラに対する意識も高まり、各企業で職場における対策を比較的対策がなされている状況も見受けられる。
  しかしながら、今まで導入していなかった在宅勤務が実施されることによって、従業員がオンライン通話等により職務を行うことにより、自宅ということから意識の緩み等によって予期せぬセクハラ・パワハラが発生する可能性がある。

⑵ 在宅勤務(テレワーク・リモートワーク)におけるセクハラ・パワハラの具体例
  ここで、在宅勤務においてどのようなセクハラ・パワハラがあり得るのかということを挙げておく。
  セクハラとしては、自宅からオンライン通話をすることにより、従業員が私服であることが多いことが想定されるが、その私服や身だしなみについて評価するような発言をすること、背景として映り込んだ自宅の部屋を評価するような発言をすること、またオンライン通話の背景に性的なポスターや物が映り込んでしまうようなことが在宅勤務に特有なセクハラとして顕在化する可能性がある。在宅勤務によって、各従業員がプライベート空間での勤務となることから職務と関係のないプライベート空間等に関して徒に評価するような言動はセクハラとされる可能性がある。
  また、パワハラとしては、普段であれば面前で伝えることにより注意・指導も適切な範囲で実施されていたのに、メールやオンライン通話になることにより通常より厳しいものになってしまい、受け手側に予期せぬ苦痛を与えてしまう可能性がある。さらに、オンラインに関する知識が必要になるためオンラインのための知識が不足している者を卑下するような発言・対応(これは部下が上司に対するものも含まれる。)が考えられる。

⑶ 企業側が取るべき対応
  では、上記のような在宅勤務に特有のセクハラ・パワハラに対して、企業の安全配慮義務としてどのような対策を講じる必要があるか。
  この点に関しては、まず実施すべきは、上記のような在宅勤務に特有のセクハラ・パワハラの問題点について従業員に対する周知徹底である。すなわち、従業員に対して上記のようなパワハラ・セクハラ防止に関するオンラインセミナーの実施やセクハラ・パワハラ防止のための資料の送付等の対応は最低限行っておく必要があると考えられる。
  次に、平時であれば、セクハラ・パワハラの相談窓口を設置している企業が多いと考えられるが、現在のような緊急時にそのような相談窓口が機能していない可能性があるため、そのような相談窓口に関してもオンラインや電話等で十分に機能するように対策する必要がある。
  さらに、従業員からセクハラ・パワハラの被害申告があった場合に、企業としては迅速に事情聴取をし、かつ、加害者とされる側にも弁明の機会の付与し、適切な事実認定をしなければもちろんであるところ、オンラインの場合は2者通話により当事者のみで他に目撃者も存在しないことが多いと考えられる。そのため、適切な事実認定のために証拠となるやり取りが存在する場合は直ちに当該証拠を保全する必要がある。また、そのような対応を見越して、予め従業員間の職務に関して発生するミーティング等のやり取りに関しては、オンラインの機能を利用して録画できる状況を活用するように従業員に対して指導することも一案としては考えられるであろう。
  
2 まとめ
  緊急事態宣言が延長され、さらに在宅勤務も延長されることになったが、在宅勤務が長期することにより、従業員同士の関係も変化し、それによって上述のような在宅勤務特有のセクハラ・パワハラの問題が発生していくことが予測される。
  そのような問題については、従業員に対する安全配慮義務の履行のために、企業としてセクハラ・パワハラを防止又は発生した場合に適切に対応するための準備をする必要性がある。
  また、緊急事態宣言が解除されたとしても今後、在宅勤務がある程度、普及することは明らかであるため、それへの対策は必須となることはもちろんである。
  そして、そのような点に対する対策(セミナー実施や資料の作成)に関しては、法律上の解釈が必要となるものであり、かつ、実際に発生した後の対応を適切に行うためには、適切な時期に弁護士に相談をすることをお勧めする。

                             以上